過去

 
 なくしたものだけが、過去にしか存在しないものだけが、ひどく美しく大切に思えてきて、先にあるものにまるで興味がなくなってしまって、明日をいらないと思うようになる。
 
 失われたものは二度と戻らない。
 失われた、ということから目を逸らして、なんとかだましだましやってきていたのに。
 
 思ってもいなかったところで、深く刻まれていた記憶が想起されて、泣き出してしまう。
 もう二度と会えない。二度と会えない。もう二度と。